自動車

 低迷が続く日本の産業でひとり気を吐いているのが自動車だ。しかし、安定成長軌道を描いているかというとそうではない。お膝元の国内は今年5月まで9カ月連続で、新車販売台数が前年実績を下回っている。堅調な米国では韓国の現代自動車が猛追するなど日本勢の牙城が崩れる可能性も出てきた。
  米国頼みからの脱却――。これまで繁栄を謳歌してきた日本の自動車産業の大きな課題である。
「日本メーカーは北米市場だけで儲けてきたと言っても過言ではない。今後は米国で利益を確保しつつ、日本、欧州、アジアでもバランス良く利益を上げられるメーカーが生き残る」。メリルリンチ日本証券の中西孝樹シニアアナリストはこう見る。
  世界最大の自動車市場である米国で成功を収めた日本メーカーだが、欧州市場は各社ともに赤字を計上、苦戦が続いている。求められるのは、欧州で主流のコンパクトカーで確実に利益を上げられる体質作りだ。
欧州市場ではなお苦戦中
 これまでの日本メーカーは、利益を出すのは高級車が中心で、コンパクトカーでは台数を稼ぐという戦略を続けてきた。一方、欧州メーカーは1つのプラットホーム(車台)を複数の車種で共有するなどして、1台当たりのコストを引き下げ、価格競争力のあるコンパクトカーを開発してきた。
  真のグローバルプレーヤーになるには欧州市場で確固たる地位を築くことが不可欠。トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車などは世界戦略を投入し、販売増とともに収益力の向上に躍起となっている。
  欧州と並ぶ重要市場がアジアだ。特に約13億の人口を有する中国は、昨年12月に世界貿易機関(WTO)に加盟、自動車に対する関税が大幅に引き下げられた。この巨大市場をどう取り込んでいくか。世界の自動車メーカーがこぞって拠点整備を急いでいる。
  製造拠点として見た場合、中国の安価な製造コストに対抗して日本の工場がどう競争力を保っていくかという問題が出てくる。低コスト生産に負けない常道は高い付加価値の創出に尽きる。そのカギは環境技術にあるだろう。中国、インドなど将来の大市場でモータリゼーションが起きれば、環境対応の重要性は一層高まる。
  現在、動力源としてエンジンと電気モーターを組み合わせたハイブリッド車を展開し、ホンダは米国で小型車「シビック」のハイブリッド車を販売。海外でも販売実績を伸ばしている。
  ただ、現在点でリードしているとはいえ決して安奏ではない。次世代動力源として燃料電池自動車が控えているからだ。世界の自動車メーカーが開発にしのぎを削っているが、燃料となる水素を取り出す方法に違いがある。どの方式が主流になるかによって業界の勢力図は一変する可能性を秘める。
  2003年にトヨタ、ホンダは燃料電池車の市販を開始する。どこかにディファクト・スタンダード(事実上の業界標準)を握るのか。2005年には「21世紀の覇者」がある程度見えてくるかもしれない。