ネルソン・パス  和訳
 ごあいさつ

Aleph Osは、シングルエンドA級のオーディオ用パワーアンプです。PassラボのAleph 0とは、Aleph 0のハードウェアがチャンネル当たり定格40Wを供給するために2チャンネルに分けられている部分を除き同じ基本設計です。

このパワーアンプの設計は最も自然な特性を備えながら、単純な回路で最良の音響製品を造ることをめざしています。Aleph OsはパワーMOSFETを使用し、自然さの基準を空気の音響特性から採用した自然な音を供給するため、単純なトポロジーのシングルエンドA級動作を行っています。

定格出力パワーの4倍を消費するシングルエンドまたは非対称A級は、通常プッシュプル回路を採用し、比較的効率が高くなります。この低効率性により設計者は「王様」であるA級回路をプリアンプまたは入力段に使用するのをためらわせてきました。

特殊で、音に対する要請が高い分野では、たとえエネルギー効率が低くても、シングルエンドA級動作のみから得られる極めて純粋な性能が得られるので価値があるものと考えています。この純粋性から、他の動作モードでは得られない高い音楽性と聴くことによる満足感を与えます。

何年ものあいだ、私はシングルエンドトポロジーの音響特性にずっと魅せられてきましたが、これまでそのような製品を市場に出そうとしてきませんでした。このたびのAleph Osは、この設計方針を反映し、Passラボラトリーズから発売された2番目の製品です。

この製品を生産する要員の数は極めて限られています。私自身が製造過程すべてを統括し、私自身でそれぞれのアンプの試験を行っています。疑問点やご意見、問題点などがありましたら、お気軽に代理店までお問い合わせください。

このたびは、本アンプをご購入いただきありがとうございます。心をこめた本製品によりお客様が楽しまれることをお祈りいたします。

次のページには、本アンプを2Ωの負荷に接続した、横軸に出力(W)をとった歪み率曲線のグラフです。我々は、経験のある専門家集団です。御自宅でこのグラフを作成するようなことはなさらないでください。

セットアップ

このアンプには3個の接続端子と1個のスイッチがあります。

最初の接続端子とスイッチはAC電源用のものです。このアンプの電圧と定格電流は下のパネルに表示されています。その値は、240Vで6Aのヒューズ、120Vで6Aのヒューズ、100Vで6Aのヒューズとなっています。AC電源の定格周波数は、50〜60Hzです。リアパネルにはAC電源スイッチがあり、アンプのオンオフに使用します。フロントパネルの青色のLEDランプが電源の状態を表示します。

購入されたアンプは標準のAC電源コードが付属しており、電源スイッチのすぐ下のコンセントに差し込みます。このアンプはACコンセントによりアースが取れるようになっています。アンプのシャーシーは直接このアースに接続されていて、オーディオ回路のグラウンドはこのシャーシーとアースに2.7Ωの電源抵抗を介して接続して、グラウンド接続を行い、かつグラウンドループを除いています。

このアンプにはAC電流サプレッサーが備えてあるため、AC電源投入時のピーク(半サイクル)は、120Vシステムでは約50A、240Vシステムでは約25Aとなります。アンプのヒューズは定格6Aの3AG速断タイプのものです。これは、AC電源ラインにシリーズに取り付けられています。

2番目の接続端子は入力部にあり、標準のメスXLRコネクターです。これはバラン塔X入力用であるため、このアンプをアンバランスソースと接続して使用する場合は、後述のアダプターを利用してアンバランスとすることができます。このコネクターのpin 1はグラウンドされており、pin 2は正信号入力、pin 3は不信号入力です。バランスモードでの入力インピーダンスは通常13KΩ、アンバランス入力インピーダンスは通常10KΩです。

3番目の接続端子は、このアンプの出力端子です。お手持ちのケーブルにより、5ウェイコネクターをスピーカーのプラスとグラウンド端子に接続してください。赤色の出力端子の極性は+、黒色のそれはグラウンドです。これらは接地されていますが、スピーカー端子以外の端子を黒色の出力端子に(接地の目的で)接続しないようにしてください。

このアンプは、スピーカーのインピーダンスが1Ω以下に落ち込むものも駆動することができます。アンプを直接ショートさせないでください。アンプを使用時に歪みが発生したりヒューズが飛んだ場合は、まずスピーカーとの接続を外し、ショートした回路をチェックしてください。このアンプには電流制限保護回路を備えていないため、アンプから極めて高い電流が流れてきます。外部ショート回路から耐えられるように設計されていますが、このような状況で壊れる可能性は残っています。このような場合は保証範囲に含まれています。

定格パワー時、アンプからは約300Wの電力を消費し、アイドル動作時、このエネルギーのほとんどがヒートシンクから熱を発生します。適正な動作をさせるためには良い換気が必要です。室温にて最適な性能が発揮できるよう調整されていますが、50〜90゚F(10〜33℃)の範囲では正常に動作します。アンプの左右と上側は、少なくとも6インチ(約15cm)は離してください。強制換気を行っていない閉じたキャビネット内にはセットしないでください。

このアンプは動作時に温度が高くなります。ヒートシンクは約1時間すれば、手で触れない位の温度(120〜130゚F(50〜55℃))に上昇します。これは正常な状態であり、内部温度が75℃を越えるとアンプをシャットダウンさせる温度シャットオフシステムを備えています。過温度プロテクションシステムが動作した場合は、温度センサーが冷えるまでアンプはシャットダウンされます。このような状態になった場合は、さらに使用する前に原因を探ってください。

このアンプの最良の性能が発揮するまでには少なくとも1時間のウォームアップ時間が必要です。最適な動作温度と出力端子でのDCオフセットを最少にするにはこの程度の時間が必要です。しかし、十分なウォームアップ時間が経過しなくても、DCオフセットの値を除き良い性能を発揮します。

このアンプはメンテナンスの必要はありません。保守性に富んだ設計ですが、シングルエンドのA級動作は最も効率の低いモードであるという厳しい条件で動作するアンプでもあります。15年以内に、電源供給コンデンサーは劣化してきます。使用状況にも依りますが、購入されてから10年から50年の間に、半導体やその他の部品が寿命となり始めます。太陽は白色わい星に冷え、その後宇宙は熱死を経験する。

製品フィロソフィーと設計理論

私がこのビジネスを始めた頃、ちょうどソリッドステーテアンプがメーカーで製造され市場に出回りました。当時はパワー値と高調波歪み値が最も重要視され、最も発行部数の多いオーディオ雑誌では、同じスペックの製品の音は同じであると述べていました。

我々は以下に述べるすべてを聴いてきました:三極管、五極管、バイポーラー、VFET、MOSFET、TFET真空管、IGBT、ハイブリッド、全高調波歪み、混変調歪み、TIM歪み、位相歪み、量子化、フィードhバック、ネステッド・フィードバック、ノーフィードバック、フィードフォワード、安定、高調波時間整列、高スルーレート、AB級、A級、純A級、AA級、A/AB級、D級、H級、定バイアス、動バイアス、オプティカル・バイアス、リアルライフ・バイアス、一定プラトー・バイアス、巨大電源、少量電源、整流電源、分離電源、スイッチング電源、ダイナミック・ヘッドルーム、高電流、高スルーレート、バランス入力およびバランス出力などを聴いてきました。

ディジタル録音されたソースの製品を除き、この25年間物事はほとんど変わっていません。ソリッドステートアンプがいまだ市場を席巻しています。発行部数の最も多いオーディオ雑誌もまだその差異を感じていません。そしてなお、オーディオファイルは自分の真空管を手放そうとはしません。市場の大勢はさておき、我々はアンプの音を改善するために、様々な性能に関する仮説の欠点を見つけながら多くの試みを行ってきました。オーディオファイルは、様々な設計のものを受け入れ、それまでの製品は、古いためあるいは忘れ去られて市場を失ってきました。

微妙な音の響きを特徴づけるのにスペックを使用するのが失敗の原因だったのです。似たような計測結果のアンプでも異なったものであり、高出力、広帯域、低歪率などは、より良い音を目指すには不必要であるのです。歴史的にも、最高の出力、最低のIM(混変調)歪み、あるいは最低のTHD(全高調波歪み)、最高のスルーレート、最低の雑音を追求したアンプは歴史に残らず、成功を納めなかった。

長い間、技術集団の中には、究極的にはある製品の解析結果は、高度なリスナーの経験と研究室の計測値とを融合するであろうと信じられてきた。たぶんこれは実現するであろうが、同時にほとんどのオーディオファイルは、オーディオの指標としてベンチスペックを利用するのを拒んでいます。これは当然の結果です。オーディオを正しく評価するのは完全に人間の経験なのです。我々はもはや、素晴らしいワインを科学的に分析したりしないように、オーディオの品質を数値で決めてはならないのです。計測値は計測内容を明確に伝えるのですが、人間の判断の材料にはならないのです。

芸術として、クラシックオーディオコンポーネントは、個性ある努力とそれに伴う哲学の反映の結果としてあるのです。彼らは、正しく認められる品質の表現として製作するのです。オーディオコンポーネント回路がその性能を最優先する自然さを求めるフィロソフィーに反映するのです。

製品の性能を完全に特長づける能力がなければ得られた波形まで戻って、これまでに達成されたプロセスを考慮しなければなりません。音楽に対してなされたこれまでの努力の歴史は重要であり、結果として経験する一部が活かされていると考えなければなりません。

何が良く鳴るかに関連する、コンポーネントの設計での経験から、何が良く鳴り何がそうでないかの大まかなガイドラインを次のように引くことができます。

1)単純さと、部品点数の少ないことが重要な要素で、これは真空管設計の品質に良く反映されています。信号経路は、連なる部品数が少なければ少ないほど良いのです。これはたとえ唯一つの増幅デバイスを追加して、計測スペックが向上した場合でも正しいことが多いのです。確かめてみればその差が判別できると思います。計測しないで推測できれば、音に影響を与える部品を想像すれば、他に人にもそれを聴き分けることができるでしょう。

これに関して最も分かりやすい良い例は、整流供給電源です。もし、この部品を使用しているのであれば、出力のみならず、電源ユニットそのものの波形に差異が認められなくても、大容量で、少量のキャパシティーによるバイパスを行っているのであれば、音の差違を聴くことができるでしょう。

2)増幅デバイスの特性とその使用法は重要です。類似のデバイス間で個々の性能の変動(ばらつき)もまた重要であり、配置の差は更に微妙に異なってくるものです。増幅デバイスやパッシブデバイスを使用することはすべて、性能悪化およびリニアリティを劣化させます。しかし、注意すべき異なったいくつかの特徴を持っています。すなわち、低次の非線形性はほとんどの場合、その量を増し、誤った暖かみや色付けがなされます。一方、急激な高次の非線形性は粗さを増加し、深みやディーテールを減少させます。

3)本来備わっている線形性を最大限考慮に入れなければなりません。これは、フィードバックを供給する前の増幅段の性能です。経験によれば、フィードバックは取り除くものであり、信号から情報を失わせてしまいます。古い設計の製品には、リニアリティーの低いのを無理矢理大量のフィードバックを掛けて直そうとしているものが存在しますが、その結果暖かみや立体感、ディテールを失っているのです。

アイドル時の高電流、あるいは高バイアスは、リニアリティーを最高のものにするという観点からは望ましく、その効果は容易に計測することはできるないが、実際に感じることができるのです。A級あるいは他の高バイアスアンプを使用した完全バイアスとバイアスを減少させたものを比較してください。(バイアス調整は簡単に行えます。ほとんどすべてのアンプにはバイアス調整部がありますが、操作は慎重に行ってください。)実験では、バイアス量のみを変化しただけで音の変化が確認されるという利点があり、操作者の予期にかなうものです。

バイアス量を減少するに従いステージの奥行き感が一般に減少します。この奥行き感はバイアス電流そのものの量により影響されるのです。

動作点をはるかに越えるまでバイアス電流を増加させ続けると、信号レベルより大きなバイアス電流により音の改善がなされることが分かります。一般に、ほとんどの試聴では数ワットのレベルですが、そのレベルで10倍のバイアスを掛けたものは一般に良く鳴ります。

この理由により、ほとんどの時間でバイアス電流が信号よりずっと大きいため、純A級動作の設計が好まれてきました。

既に示したように、プリアンプの増幅段とパワーアンプのフロントエンドはシングルエンドの純A級であり、ここでの信号レベルは低いワット数のため回路の効率は重要ではありません。

4)信号に対して行った努力のすべてが聴かれると仮定すると、アンプは必然性として最も自然に、すなわち、自然に聴くことができるような特長のみを持たなければなりません。音の経路の中で我々が変更したり改良することのできない要素が1つあります。それは空気です。空気が音の善し悪しを決め、自然のベンチマークとなります。

市場にある実質上すべてのアンプはプッシュプル対称モデルを基礎としています。このプッシュプル対称トポロジーは実質上特別なものではありません。しかし、アンプを設計するに当たり、このことは空気の特性にも有効でしょうか?対称モデルでは音楽信号が失われるでしょうか?答えはイエスです。

空気の最も興味深い性質の1つは、そのシングルエンドの性質です。空気を通してやってくる音は次のガス方程式の結果なのです。

PV1.4=1.26×10 4

ここで、Pは圧力、Vは体積であり、図1に線図を示します。この空気の特性による僅かな非線形性は、通常の音圧レベルではそれ程重要ではないと一般には判断されていて、すぐれたアンプの歪み率の数値と同等であると考えられています。この歪みは一般にホーンの喉部にのみで起こり、マウス部では何倍もの圧力レベルに達し、高密度の圧力レベル変動が何度も発生する、高調波成分は数パーセントに達します。


  図1  空気の特性

図1は空気がシングルエンドの特性を備えていることを示しています。空気を押して圧力をある程度上昇させることはできますが、引くことはできません。できるのは空気をゆるめて、その特性で空間を満たすことだけであり、この際圧力は絶対に”0”以下には下がらないのです。空気を押すに従って圧力が上昇しますが、その圧力上昇は、逆の空気を膨張させる際の圧力下降に比べて大きいのですこれは、空気中でダイヤフラムが正弦運動を行っていても、正の圧力運動の方が負のそれより僅かに大きいことを意味します。これにより、空気は位相に敏感であると考えます。

このシングルエンド特性の結果、空気の高調波成分は主に2次のオーダーのものであり、シングルトーンの歪みのほとんどは2次の高調波歪みであるのです。この歪みの位相は負の圧力により、より高い正の圧力に影響されます。

空気の伝送曲線の解析によると、これはモノトーンであり、発生した歪みは高圧レベルが減少すればスムースに下降します。このことは、オーディオの設計でしばしば考慮に入れられてきた重要な要素であり、初期の劣悪なソリッドステートアンプやD/A、A/Dコンバーターなどに現れています。それらが扱うのはモノトーンではないため、歪みは高圧のレベルが低下すれば増大します。

オーディオ信号を電気的に表現する際、通常はDC成分を除いたAC波形を考慮にいれます。オーディオは電圧と電流が交互にシンメトリックに正負が入れ替わるものとして表されます。この見方はプッシュプルとして知られるアンプのパワー段でエネルギー効率の高い設計用を考慮しているため便利です。プッシュプルではアンプの”プラス”側は、”マイナス”側と動作が交互に行われます。プッシュプルアンプの正負側はオーディオ信号を交互に操作します。”プラス”側は正の電圧・電流をスピーカーに供給し、”マイナス”側は負の電圧・電流をスピーカーに供給します。

プッシュプル設計のアンプが持つ、クロスオーバー歪みと関連する問題点は他の所で長い間議論されてきました。その重要な結論の1つは、単純でないということです。B級やAB級設計の多くは、信号を減少させ、歪みを極めて大量に発生します。この歪みはA級モードで大きく減少されますが、変換曲線の低次の非連続であるクロスオーバー歪みは残ります。

できる限り自然に音楽を再生するためには、プッシュプル、対称動作は最良のアプローチではありません。空気は対称ではなく、プッシュプル特性もありません。空気流の音は、ある正の圧力点まわりの振動です。そこには、より高い正の圧および、より低い正の圧力という正の圧力のみが存在するのです。

プッシュプル回路は奇数次の高調波歪みを増加し、位相整列により正と負のピークの両者と、零点付近のクロスオーバー非線形性に影響を与えます。

1個の線形回路トポロジーで適正な特性を示し、それがシングルエンドのアンプなのです。シングルエンド増幅のみが純A級を達し、通常得られるパワー段は定格出力パワーの4倍のアイドリング電流を必要とする最も低効率なものです。

シングルエンド動作自体は新しいものではありません。これは、高級なプリアンプ段の低電圧回路や、高級なパワーアンプのフロントエンド回路でよく見られます。最初の真空管のアンプは、トランスの初段をドライブするシングル真空管補用いた非対称回路が採用されています。

1977年、私は正電流ソースによりバイアスを掛けたバイポーラを使用した非対称A級アンプを設計し、オーディオ雑誌で公表しました。多数のアマチュアの方がこのデバイスを使って20Wの出力を持つアンプを製作し、このユニークな音に対してコメントをいただきました。

シングルエンドのA級動作は一般にプッシュプルA級より効率が低いものです。シングルエンドのA級アンプはプッシュプルアンプより大きくなり、価格も高くなりますが、より自然な変換曲線が得られます。

この数年内に、A級設計の”純粋性”が話題にされ、純A級はアイドリング熱消散がアンプの最大出力の2倍であると漠然と定義されました。たとえば、100Wのアンプでは、アイドル時に200W消費します。

音楽信号によりバイアスが変動する設計では、一般に信号レベルの値またはそれ以下のバイアス電流を発生します。これがエネルギー効率からの観点からは確かに向上させるものですが、音がバイアス点を下げます。

1974年、ダイナミックバイアスによるA級アンプに関する私の最初の特許を取得したことをご存知かもしれませんが、これまで15年間にその技術を利用したことはありません。その理由は、この効率的なA級動作の音質は、音の深さや高音域での滑らかさなどが、特に低レベル時でバイアスが減少するため、低下することが判明したからです。市場にある極めて多数の低温度で駆動する”A級”アンプをみて、私がパンドラの箱を開けたと言われるかも知れません。

Aleph Osのシングルエンドバイアス点に出力電流が達するまで、シングルエンドA級アンプはバイアス点で、負の出力電源の一定電流によって供給されると考えられます。シングルエンドのバイアス点を超えて40Wまでの間には、従来の考えでの(純粋)プッシュプルA級動作となり、バイアス点の2倍でA級ではなくなります。他の純A級アンプと同様、このアンプは、より高いパワーレベル(25A)でもプッシュプル動作を続け、出力段の使用しない半分をシャットオフします。

自然な特性を備えたアンプを作る際に考慮すべき重要なことは、ゲインデバイスを慎重に選択することです。シングルエンドのA級トポロジーが最適であり、そのアンプには、負の増幅値よりほんの僅かだけ正の増幅値が大きい特性を求めています。電流ゲインデバイスに関しては、ゲインが電流の増加にしたがいスムーズに増加し、真空管や電解効果デバイスでは電流の増加により相互コンダクタンスがスムーズに増加することです。

三極管とMOSFETは共に有用な特性を備えています。相互コンダクタンスは電流の増加により増えます。バイポーラーパワーデバイスはアンプの設計点までは僅かに増加し、それ以上は電流では減少します。一般に、シングルエンドのA級回路にはバイポーラータイプはマッチしません。

真空管とFETが共に備えるもう1つの特長は、単純なA級回路で高効率であることです。市場のバイポーラー設計アンプは、信号経路に4〜7段の増幅段があるが、真空管やMOSFETのすぐれた特性では、シングルパスで2〜3段の増幅段で達成することができます。

さらに、バイポーラーに比べて、真空管とMOSFETの持つ特長は、高温度における信頼性が高いことです。既に示したように、シングルエンドのパワーアンプは比較的電力消費量が多く、稼動中の温度は高くなります。

三極管とMOSFETのどちらかを選択する際、MOSFETの優れている点は、スピーカーに送る電圧と電流で自然に動作することです。ダイレクトカップルのシングルエンド三極管パワーアンプを作ることは、真空管の高電圧と低プレート電流により極めて限定されてきました。市場のアンプでは、数百ワットの電力消費量にかかわらず、8ワット程度以下のパワー出力となります。

トランスでカップリングされたシングルエンドの三極管アンプも考えられます。このトランスは高DC電流によりコアが飽和するのを避けるため、広いギャップのコアのトランスを使用しますが、そのため特性が下がることになります。

最も現実的な音楽再生をするパワーアンプの相互コンダクタンス特性を得るには、簡単に使用できバイアス値が高いため、MOSFETのシングルエンドのA級回路が最も良いものです。

Aleph Osは、すべてのゲイン段にインターナショナル整流HEXFETパワーMOSFETのみを使用しています。このMOSFETは、非対称A級設計に求められる理想的な変換曲線を備えているため採用しています。アメリカで作られており、今日までテストしたパワーMOSFETの中で最も高品質なものです。我々は、入力デバイスにはお互い0.3%以内、出力デバイスには同じく0.2%以内にマッチングをとっています。最大ピーク値はそれぞれ25Aであり、8個並列で駆動します。

Aleph Osに使用しているパワーMOSFETでの温度は150℃まで上がり、これを定格の20%程度の、ばらつきの少ない温度差で動作させます。

ゲインデバイスのタイプにかかわらず、最も自然な再生が目的であり、単純シングルエンドのA級回路は選択した1つの回路です。

正の信号でA級を保っているため、シングルエンドのA級設計は通常、バイアス点以上の負の電流値でクリップするため、Aleph Osはバイアス点以上の負電流で、プッシュプルA級にスムースに変わるように出力段に独自なプル用エレメントを備えています。この設計は正および負のピークで25アンペアのピーク電流を扱うことができ、任意の位相角で1Ωに安定的に動作します。この新しいトポロジーは、プッシュプルのA級動作では恐らくクリッピングを起こす、従来のシングルエンドのバイアス量より高い負の電流を扱うように設計されました。

これは極めて単純なトポロジーであり、このことは音質に関して重要なことです。他のソリッドステートアンプの設計では、十分な性能を達成するのに十分なフィードバックを使用するため、信号経路に通常5〜6段の増幅段数を使用しています。このアンプでは、より高いバイアスを与えて3段の増幅段でより高いリニアリティーを達成しています。

Aleph Osは全段でMOSFETパワートランジスターを使用しています。入力段はパワーMOSFETを使用し、フロントエンド回路を通常流れる電流の8〜10倍のバイアスを流します。その結果、単一の回路から極めて優れたリニアリティとドライブ性能を得ています。

MOSFETはソリッドステートの中で最も広い帯域幅を持っていますが、この理由で選択されませんでした。Aleph Osの設計はそのような広帯域幅を求めていません。MOSFETのキャパシタンス回路に存在する抵抗性のインピーダンスと共に自然なロールオフ特性を持ち、単純な回路により一極のロールオフ特性を備えます。

このアンプのスルーレートは、負荷状態で約50V/μSであり、これはこれまでに体験した最も速い信号より約10倍速く、これから聴くであろう信号の約100倍のものです。本質的に、このスルーレートは真空管や単純なMOSFET設計のアンプを評価するのに重要ではありません。フィードバック補正に強く依存している複雑な回路トポロジーには重要となってきますが、それでもこの重要性は過大評価されています。

帯域幅の反対側で、このアンプは完全なDC(直流)に対して応答し、DC電源供給用しとても十分使用することができます。回路の増幅段にはコンデンサーがありません。ウォームアップ後のアンプのDCオフセットは約0.05Vです。アンプのウォーミングアップ中は、少し高いDCオフセットを示すが、性能に問題を与えるほど高くありません。

完全にDC応答を行うことは、ソースにDC成分を含んでいた場合、スピーカーにDCを送り込む可能性があることを示しています。スピーカーを壊さないため、この点に十分注意を払ってください。スピーカーに与えるダメージに関しては、このアンプの保証に含まれていません。アンプの出力部にDCが存在するかどうかについては、安価な電圧計で発見することが可能です。DCオフセットをソースを接続してアンプをオンにしてチェックすることができますが、その時はスピーカーの接続を外してください。疑問点があれば、ディーラーか工場にご相談ください。

どのような使用状況にても動作ノイズを最小にするため、アンプはバランスタイプの入力端子を備え、コモンモードのノイズ低域を60dB以上としています。バランス動作は、他社製のようにアクティブな入力回路を追加せずに、アンプの入力段に直接結合されているパッシブネットワークを通して行われます。これにより、バランス動作のノイズ特性が、増幅経路に半導体を追加して低落することがなくなります。

このアンプの入力は柔軟性に富み、アンバランスソースを動作することもできます。入力系はコモンモードのノイズ低減をパッシブバランスソースでも行い、ネガティブ入力は、適正なソースインピーダンスを通して、ソース部でグラウンドに接続されます。これにより、アンバランスソ−スをパッシブケーブル接続により、アクティブバランスソースのノイズ低減を達成する方法でバランス動作にすることができます。

図2はバランスモードを使用している場合のネットワークの概念図です。このネットワークを持つ差動アンプでは、入力インピーダンスを3種の方法で見るものがあります。それは、コモンモードの入力インピーダンス、正の入力インピーダンス、負の入力インピーダンスなどです。信号とノイズに見られ、2つの入力と同等なコモンモードの入力インピーダンスは10KΩです。この入力インピーダンスは両入力のコモンモードの信号とノイズとして別々に見られます。正の入力部では、入力インピーダンスは、アンバランスモードで10KΩ、バランス差動入力インピーダンスは13KΩです。

このネットワークを駆動するもう1つの方法があり、それも図2に示しています。正の入力は、どのプリアンプを使用してもソース回路によりアクティブに駆動されます。

負の入力は、アクティブソースの出力インピーダンスにマッチするインピーダンスを通して、ソース部でグラウンドにパッシブに接続されています。図2の場合、ソースは100Ωの出力インピーダンスであるため、100Ωの抵抗が使用されています。これでバランス入力のフルノイズ低減を行い、低インピーダンスの負の入力をドライブするのを避けています。この回路は、負の入力がソース部で終えられるとき求める低減特性を保ちながら、アンバランスソースをバランス入力にうまく適合されます。

シングル・アンバランス入力でアンプを動作するには、オスアダプターを使用し、信号はpin2に、グラウンドはpin1とpin3に送ります。pin3を間違えて負の入力に接続すれば6dBの電圧ゲインをロスしますが、そうでなければ問題点は発生しません。

最大瞬間出力電流は約25Aであり、これは1Ω負荷に対して約600ワットに相当します。25AのAC電源ヒューズは恐らく数秒以内に飛んでしまうでしょう。負荷の高い非音楽を連続的に駆動すれば、温度保護が働きます。これらの極端な状態は音楽を増幅するのに使用していればほとんど起こることはないものです。

困難と考えられる負荷や、通常ではない使用状況を考慮される場合はお気軽に情報やアドバイスを私どもにお求めください。

負荷インピーダンスはアンプの特性を大きく変えることはありません。各アンプはそれぞれ1KHzで、2Ω負荷に対して1〜160ワットの歪み率曲線付きで供給されています。

このアンプは負荷のリアクタンスには影響されません。シングルエンドのA級デバイスであるため、最も消費の多いのはアイドル時であり、リアクティブ負荷に流れる電流は消費量を特に変えることはありません。負荷の抵抗部に流れる電流は一般にアンプがより低い温度で動作させます。リアクティブ負荷はアンプの歪み率を増加させず、実際歪み率を少しばかり低減させます。

このアンプは電源に容量0.125Fトロイダルトランスを備え、150ジュールをチャージします。この未整流電源は約0.25Vのフルパワーリップル時のみ出力トランジスターに送られます。ノイズ低減のため、フロントエンド回路はメインレールからパッシブに結合されています。

Aleph Osのシャーシーは完全な機械加工を施したアルミニウム製です。金属板などは使用していません。シャーシーは、我々のコンピュータ制御された4台のフライスマシンで無垢のアルミニウムブロックから機械加工しています。シャーシーはまた、我々の製造した正面フライス盤で加工しています。加工した部品は、ウェスト・コーストにある最高のめっき工場で表面加工と酸化処理を行っています。